本書は、「老後資金はいくら必要か」という漠然とした不安に振り回されるのではなく、現在の資産や生活を客観的に把握し、お金を減らさない仕組みを作ることが、安心した老後につながると説く一冊である。
著者はまず、65歳以降も働く選択肢が広がっていることを紹介する。2025年4月からは、高齢者雇用確保措置の経過措置が終了し、本人が希望すれば企業は65歳まで雇用を続ける義務を負うことになった。さらに将来的には70歳まで延長される可能性もあるという(p41)。
老後資金については、必要以上に大きな金額を恐れる必要はなく、夫婦で約1400万円、余裕を見て1500万円程度を現金で確保しておけば安心だと述べる(p43)。また、高齢になるにつれて支出も減少する傾向があり、65~69歳では月29万円だった実収入は、70~74歳では26万円、75歳以上では23万円程度へと約1割ずつ減少している(p44)。
住まいも重要な資産である。自宅がいくらで売れるかを把握しておくことは老後設計に役立つが、実際の売却価格は売り出し価格の約8割程度と見積もるべきだとしている(p55)。
日常生活では、サブスクリプション契約の見直しも重要である。毎月3000円程度の少額決済は不正利用防止システムでも検知されにくく、本人も気づかないことがある。銀行口座やカード利用明細を定期的に確認し、不審な引き落としがあれば問い合わせることを勧めている。管理できないならサブスクをやめてもよいという考え方である(p73)。
経済環境については、日本だけが長期間ゼロ金利政策を続けたことの副作用を指摘する。欧米諸国はコロナ後に金利を引き上げてインフレを抑制したが、日本は金利を十分に引き上げられず、海外との金利差から円安が進んだ。著者は、これを長期に及んだアベノミクスの副作用として説明している(p89)。
資産運用については慎重な姿勢を取る。つみたてNISAでは、投資信託が暴落した際には解約希望者が殺到し、換金できない可能性があることが目論見書にも記載されているという。制度があっても国が資産を守ってくれるわけではないと注意を促す(p125)。
一方、個人事業主などにはiDeCoより小規模企業共済の利便性も紹介している。iDeCoは原則60歳まで引き出せないが、小規模企業共済は事業を辞めた時や65歳以降には受け取りが可能であり、退職金として利用しやすい制度である(p133)。
マンション投資については否定的である。ローン返済に加え、管理費、修繕積立金、固定資産税、設備修理、空室リスクなど多くの費用が発生するため、個人投資家が利益を得るのは容易ではないとしている(p143)。
老後資金管理では、まず資産と負債を一枚の紙へ書き出すことを提案する。預貯金、投資信託、株式、保険などの資産から、住宅ローンや自動車ローンなどの負債を差し引いた純資産こそが家計の実力を示す(p169)。
さらに資産の棚卸しとして、現金は十分か、将来必要資金は確保されているか、保険は過剰ではないか、住宅ローンは退職までに完済できるか、高金利ローンは残っていないか、老後資金不足時の代替策はあるかを確認することが重要だとしている(p174)。
認知症など将来への備えとして任意後見制度にも触れている。ただし制度利用には公正証書作成費用や専門家への報酬が発生し、家族が後見人でも監督人が必要になる場合がある。結果として、子どもであっても親の財産を自由に管理できないケースがあることを説明している(p247)。
著者が本書で一貫して伝えているのは、「資産を増やす」ことより、「資産を守る」ことの重要性である。家計の現状を正確に把握し、無駄な支出を減らし、過度な投資リスクを避けることが、老後のお金の不安を取り除く最も現実的な方法である。