楡周平『限界国家』は、日本が抱える構造的な限界を、人口・経済・技術・制度の4つの軸から鋭く描き出す。著者はまず、内需依存経済の危うさを指摘する。GDPの7割を内需が占める日本では、経済の自立に最低でも1億人の人口が必要とされるが、少子高齢化が進む今、その前提が崩壊しつつある(p19)。それにもかかわらず、政治家や官僚は前例主義に固執し、キャリア優先でリスクを取らない構造が改革を阻んでいる(p34)。
人口動態統計も、出生率からの単純計算に過ぎず、人口減少が地域社会に及ぼす環境変化を反映できていない(p38)。その結果、医療・福祉・地域産業の持続可能性が歪んでいる。さらに、政治は票田である高齢者を優遇し、若者への投資を怠ってきた(p136)。
一方で、グローバル化とテクノロジーの進展は、「職業寿命」という新たな概念を生んだ。革新的技術が登場するたびに、既存の職業が消滅し、人員が激減していく(p91)。この変化の時代に必要なのは、知識よりも「世の中の流れを読む力」と「どんな状況でも食べていける能力」である(p99)。AIや自動運転技術の進展は、労働からの解放をもたらす一方で、雇用構造の崩壊を加速させる(p283, p305)。
医療制度も限界を迎えている。欧州型の「予約制医療」を持ち出し、日本の“いつでも受診可能”モデルの脆弱さを指摘。治験データの多くが製薬会社主導で作成される現状にも、透明性の欠如を警告する(p150)。高齢者の医療・介護費が財政を圧迫し、健康寿命以降の支出増大が国家財政をさらに逼迫させる(p157)。
経済面では、消費者志向を忘れた「儲け優先型」企業の衰退(p171)を通じて、資本主義の疲労を描く。同時に、仮想通貨・NFT・ブロックチェーンといった新市場が、旧来のオールドモデルを淘汰する動きを見せる(p236, p247)。国家を越えたデジタル経済圏の拡大は、通貨や本社所在地の意味を変えつつある。
技術革新は雇用を生むどころか縮小させている。過去の産業革命が「火」を使い新たな雇用を生んだのに対し、情報革命は「雇用喪失の革命」となった(p330)。ディーラー網・事務職・物流・運送までもが自動化の波に飲まれ、社会の根幹である“労働の意味”が失われていく(p301, p305)。
著者は結論として、人類が技術を通して目指してきたのは「労働からの解放」であり、もはや「労働による生活」という通念自体が限界を迎えていると説く(p336)。その時、国家もまた、従来の制度・経済・価値観を支える基盤を失い、「限界国家」へと変貌していくのである。
summary
限界国家