本書で齋藤孝氏は、「オジサンの話し方」が嫌われる最大の理由を、年齢そのものではなく、話し方を時代に合わせて更新できていないことに求める。スポーツではルールが変われば選手や指導者も戦略を変える。同じように、コミュニケーションにも時代ごとのルールがあり、それはむしろスポーツ以上に短い周期で変化している。ところが、年齢を重ねた人の中には、過去の常識や成功体験に依存し、「昔はこれで通用した」という感覚のまま話し続ける人がいる。若い世代は必ずしもそれを指摘してくれるわけではなく、何も言わずに距離を取り、ある日突然関係を断つこともある。したがって必要なのは、相手から注意されるのを待つことではなく、自分から話し方を更新する姿勢である(p3~6)。
ここでいう「オジサン」は年齢によって固定されるものではない。何歳であっても、自分より下の世代から見れば「オジサン」になり得る(p18)。特にハラスメントやジェンダーなどについて、「知らない、気づかない、気にしない」という「3ないスタンス」を続けていれば、若い世代から敬遠されるのは避けられないと著者は述べる(p30)。重要なのは、行動だけを表面的に直すことではなく、考え方の土台そのものを更新することである。齋藤氏はこれを、古いOSのまま新しいアプリを入れてもうまく動かないパソコンにたとえている(p31)。
そのためには、分からないことを無理に知ったふりをせず、「分からない」「知らない」と素直に言うことが大切である(p37)。また、自分の関心を過去の好きなものだけに閉じず、「今」に興味を持つ必要がある。世代や職業の違う人から本、映画、音楽などを薦めてもらい、自分の定番のうち二割程度を新しいものに入れ替える。すべてを自分好みで固めず、意識的に未知のものを取り入れることで、感覚の風通しをよくすることを勧めている(p41~42)。
さらに齋藤氏は、年齢を重ねた人の役割そのものを変える必要があると説く。若い人と同じ土俵で競うのではなく、それまで蓄積した経験や知識を生かして、若い人を支える側に回るのである(p45)。しかも過去の成功は、本人の能力だけではなく、タイミングや時代背景などの外的条件に左右されている。成功体験を絶対視してはいけない(p56)。自慢話をする場合でも、五秒以内に収めるくらいの自制が必要だという(p59)。
若い世代との関係では、上下関係を前提にせず、目線をフラットにして対等に向き合うことが重要である(p63)。むしろ年長者が「教えてもらう姿勢」を示すと、若い世代の側にも「こちらも教えてほしい」という気持ちが生まれる。年長者は経験や知識を提供し、若い世代は新しい感性や情報を提供する。この「交換」によって、互いの理解が深まり、関係も豊かになる(p65)。著者はソクラテスにも触れ、自分が分かっていると思い込まず、若者と対等に議論しながら「分かっていなかった」と気づくことこそ知の出発点だと述べる(p67)。
意見が対立した場合にも、まず相手がなぜそうしたいのか、どのような事情があるのかを確認し、そのうえで対応できない理由を冷静に説明することが重要である(p80)。ルール違反や間違いに接したときも、すぐに「成敗しなければ」と反応するのではなく、一度立ち止まり、感情にブレーキをかけて言葉を選ぶ(p86)。また、自分が間違えたときには素直に「間違いでした」と認める。間違えること自体よりも、間違えた後にどう振る舞うかが、嫌われるかどうかを左右する(p98)。自分の考えも断定せず、「○○かもしれない」という仮説として提示し、会話の中で反証がないかを確認する姿勢が望ましい(p103)。
会話では、話すこと以上に「聞くこと」が重要になる。齋藤氏は「は・ふ・へ・ほ」の相づちを例に挙げ、「へぇ、知らなかったな、もっと教えてよ」といった反応によって、若い世代の話を受け止めることを勧める(p117)。反対に嫌われやすいのが「会話泥棒」である。相手が話している途中で「俺の場合は」と自分の話にすり替えてしまう。自分にも似た経験があったとしても、まず相手の話を最後まで聞き、一段落してから「実は私も」と切り出す。「後出しジャンケン会話」が基本だという(p121~123)。
また、若い世代から見たオジサンの話し方には、「話が長い」「同じ話を繰り返す」「分かりにくい」「表情や態度が怖い」といった特徴がある(p142)。著者は、話の制限時間を十五秒程度と意識し、まず結論から話すことを勧める。背景や経緯から丁寧に説明し始めると、本題に到達するまでが長くなるからである(p148~150)。同じエピソードを何度も話してしまうことにも注意が必要である。語尾についても、「ね」を活用することで話し方を柔らかくできるとする(p170)。
さらに、ジョークは話す側と聞く側が「元ネタ」を共有して初めて成立するため、世代差を意識する必要がある(p184)。一方、犬や猫などのペットは世代を超えて話題にしやすく、ポジティブな感情で会話を終えやすい(p197)。若者に質問するときも、過去ではなく「今」を聞く。「学生時代は何が好きだったのか」より、「今、何に夢中なのか」と尋ねる方が、相手は話しやすい(p207)。
本書全体を通して齋藤氏が求めているのは、若者への迎合ではない。年齢とともに過去の成功体験や常識を固定化するのではなく、時代の変化を受け入れ、自分の意識と話し方を更新し続けることである。分からないことを認め、相手を対等に扱い、まず聞き、自分の話は短くする。そして、年長者は自分の経験を一方的に教えるのではなく、若い世代の新しい知識や感覚と交換する。その姿勢こそが、世代を超えたコミュニケーションを成立させる条件だというのが、本書の中心的なメッセージである。
summary
オジサンの話し方はなぜ嫌われるのか