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summary

異次元に突入した世界経済

異次元に突入した世界経済の写真

本書の出発点は、現在の世界で起きている政治・金融・安全保障・資源・食料・情報・テクノロジーの変化を、個々のニュースとして切り離して見ていては本質を理解できない、という問題意識である。これらは複雑に結びつき、一つの大きな流れを形成していると著者は考える(p3)。そして本書全体を貫くテーマを「革命と変化」と位置づけている(p6)。

その中心に置かれるのが、アメリカを軸としてきた従来の国際秩序の弱体化である。著者によれば、アメリカ政府は深刻な資金不足に陥り、世界の国々も従来のようには米国債を買わなくなっている。そのため、ゴールド、銀、石油などの現物資産の重要性が急速に高まり、トランプ政権も資源確保を強く意識しているという(p25)。一方、ベネズエラの石油については、米国石油大手の経営者が、市場がすでに供給過剰であり、新規開発を進めれば価格が下落するだけだとして消極的な姿勢を示したとされる(p27)。

こうした通貨・財政の変化を象徴するものとして、著者はゴールドを重視する。2026年2月時点で、世界の中央銀行によるゴールド保有額が数十年ぶりに米国債保有額を上回り、ゴールド約5兆ドルに対し米国債約3.9兆ドルになったと本書は述べる(p82)。著者にとってこれは、ドルや米国債を中心としてきた金融秩序から、現物資産を重視する秩序への転換を示す出来事である。

さらに、トランプ政権の関税政策についても、著者はアメリカの弱体化の一例として取り上げる。トランプ大統領は関税を貿易相手国が負担すると主張してきたが、ニューヨーク連邦準備銀行のレポートでは、関税引き上げ後の最初の8か月間、その負担の94%を米国企業と国民が負ったと報告されたという(p82)。

本書で特に大きな比重を占めるのが、中東とイランをめぐる軍事・資源問題である。ホルムズ海峡は石油だけでなく、天然ガスや窒素肥料の重要な輸送路でもある。著者によれば、その封鎖の影響で米国内の肥料価格が大幅に上昇し、農家は干魃と肥料高騰という二重の打撃を受けた(p47)。これは、軍事衝突がエネルギーだけでなく、農業や食料問題にまで直結することを示している。

また本書では、中国を経由した決済の仕組みにも注目する。表面上は中国から欧州へ石油を輸出している形でも、実際には中東から欧州へ直接石油が運ばれ、決済だけを中国の銀行が担うケースがあると著者は述べる(p55)。ここでは、資源そのものの物流と、決済を支配する金融システムが別々に動き始めているという変化が示唆されている。

中東での軍事衝突について、著者はさらに踏み込んだ主張を展開する。アメリカとイスラエルはイランとの戦争で大きな打撃を受け、イラン上空の制空権を掌握できず、米海軍や空母も中東から撤退したと記している(p119、p121)。また米軍内部でも政権の命令に従わない動きがあったとし、最終的にアメリカはイラン側との和平条件を受け入れる方向へ追い込まれたとする(p128、p136)。これらは本書における著者の主張であり、国際情勢を理解する際には他の情報源との照合が必要な部分である。

しかし、この一連の記述から著者が示そうとしている核心は明確である。それは、圧倒的な軍事力を背景に国際秩序を主導してきたアメリカの力が弱まり、その結果として中東諸国の行動も変化しているということである。UAEやサウジアラビアがアメリカから距離を取り、イランとの関係改善を進めているのも、アメリカが従来ほど安全保障を提供できなくなったためだと著者は見る(p118)。

同時に、従来のアメリカ同盟国との関係も変化している。本書では、カナダ、ドイツ、日本、イギリスなどが米国製兵器への依存を減らす動きを見せているとし、石油・軍需・製薬という従来の米国権力基盤が揺らいでいると論じる(p99)。さらに欧州でも独自の安全保障体制を構築する動きが進み、従来の「アメリカを中心とする西側」という枠組み自体が崩れつつあるというのが著者の見立てである(p105、p201、p204)。

AIへの巨額投資についても、著者は単なる技術革新としては見ない。商業的収益だけでは巨額投資を正当化できず、真の狙いはAIを利用した市民監視と社会の中央管理にあると主張する(p59)。この点にも、本書の「政治・金融・情報・テクノロジーは一つにつながっている」という視点が表れている。

こうした世界的な変化の中で、最後に著者が問いかけるのが日本の進路である。日本はこれまでの対米依存を見直し、自らの国家戦略を再構築する必要があるとする(p248)。アメリカ、中国、ロシア、欧州、中東、新興国がそれぞれ独自の利害で動く現在、どこか一国についていくだけの外交は大きなリスクになるという(p253)。

本書から読み取れるのは、著者が現在を単なる景気変動や国際政治上の混乱ではなく、**戦後のアメリカ中心の政治・金融・軍事秩序そのものが転換する「革命期」**として捉えていることである。ドル、米国債、石油、軍事力、同盟、食料、AIといった一見別々の問題を、一つの構造変化として見ることが本書の最大の特徴である。そして日本についても、「どの大国についていくか」ではなく、複数の勢力と関係を築きながら、自らの利益と安全保障を主体的に設計する必要がある、という問題を読者に投げかけている。

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