・2022年3月に、資産運用で最大手のブラックロックCEO(ラリー・フィンク)は、ロシアのウクライナ侵攻で、我々が過去30年にわたり経験してきたグローバリゼーションは終わりを迎えた、と記した。ポール・グルーグマンは「我々は、1914年(鉄道・蒸気船・電信ケーブルによる第一次グローバリゼーションが終焉した年)の経済的な再現を見ていると言って良い」と指摘した(p14)過去30年にわたりグローバリゼーションを前提としてきた、その前提が崩れたのだ、これからの国家政策は、これまでの30年とは全く異なる、それどころか正反対のものにならなければならないだろう(p15)
・グローバリゼーションの終わりは、いつから始まっていたのか。世界の有識者の認識はほぼ一致している、それは2008年のリーマンショックである。グローバリゼーションの進展度合いは、世界の貿易解放度(世界のGDPに占める輸出入の合計の比率)によって計測できる、1870年に17.6%であったが、1913年に29%、しかしこれは第一次世界大戦の勃発によって終焉した、1945年には10.1%にまで低下、戦後1980年には39.5%、1989年には冷戦終結によりさらに進展して2008年には61.1%に達した(p17)リーマンショックが収束しても、かつての水準に戻らず低下した。2020年のコロナパンデミックは、すでに進んでいた「スローバリゼーション(グローバル化の鈍化)」に追い打ちをかけたに過ぎない、グローバリゼーションは、2022年でなく、2008年に終わっていた(p18)
・1997年2月に、ジョージ・ケナン(戦略家)は、NATOの東方拡大は、ポスト冷戦時代全体を通じて、アメリカの政策の最も致命的な過ちとなるであろう、と嘆いた。恐るべき洞察力である(p28)
・金融市場のグローバリゼーションは、金融資産バブルを発生させたに過ぎない、バブルで膨張する債務に依存して拡大した消費が経済成長を牽引したので、人々はグローバリゼーションが成功したと錯覚した、しかしそのような偽りの繁栄は、金融資産バブルが崩壊すれば終わる(p30)人のグローバリゼーションについても言える、アメリカやヨーロッパで起きている排外主義的なポピュリズムの高まりは、移民労働者などのグローバリゼーションが招いたもの、イギリスのEU 離脱もそうである(p31)
・台湾有事のリスクは、ウクライナ戦争とも連動している、中国はウクライナ戦争を見て、アメリカは核を保有する大国との戦争は避け、介入するにしても、せいぜい経済制裁と武器供与ぐらいだと確信したから(p33)
・日本の送電システムは地域間の連携が脆弱(南北に細長い島国、山がちで平野が少ない、送電線の立地場所が少なく用地取得が難しく送電インフラの整備は容易でない)で、この弱点を克服するために、発電と送電を一体で整備・運用する責任を電力会社に一元化させてきた(p42)電力市場の自由化を限定的にしか行ってこなかったのは、電力の安定供給(=エネルギー安全保障)の要請からであった(p43)
・グローバリゼーションが終わった世界はどのような姿になるのであろうか、第一次グローバリゼーションの終焉の後に現出したのがブロック経済化であることを考えると確かにその可能性は否定できない、ただしブロック経済を形成できるのは、周辺国を経済的に依存させるほど国内市場が大きく、かつブロック内に戦力を投射できる「地域覇権国」のみ、東アジアにおいては残念ながら中国である(p46)
・2020年代に入り、グローバリゼーションの終焉は誰の目にも明らかになった、それとほぼ軌を一つにして、インフレーションが世界を襲った、実はこの2つの現象は、深く関連している。結論を急げば、グローバリゼーションが終わったから、インフレが起きたのである(p50)
・インフレとは「需要過剰・供給過小」の状態によって引き起こされるが、同じ状態であっても、その主な原因が需要の増大にある場合(適正水準より大)には、デマンドプル・インフレであり、供給の減少にある場合には、コストプッシュ・インフレである。対策はその両者で異なってくる(p55)戦争がインフレを起こしやすいのは、デマンドプル(軍事需要の拡大)とコストプッシュ(徴兵戦争により労働者が不足)の両方を引き起こし得るから(p59)コストプッシュインフレは、財政支出の拡大を必要とする(p69)、デマンドプルインフレ対策は、政府が財政支出を削減(=公共需要の減少)増税、利上げにより民間需要が減少が対策となる(p67)
・産業資本主義が未発達の経済では、需要の増加に応じて供給を増やすことが容易にできない、このため、デマンドプル・インフレが経済成長をもたらさず、ただ物価の高騰が国民生活を圧迫するだけにとどまる、産業資本主義以前の経済や開発途上国が、しばしばインフレに悩んできたのは、このためである。また突発的・大規模な戦争により軍事需要が急激に膨張するような場合には、先進国といえども供給が追いつかず、物価が高騰して国民生活を圧迫するだけに終わる場合もある(p75)戦争のような例外を除けば、発達した産業資本主義の下では、デマンドプル・インフレは、需要増→供給増→需要増のスパイラルを働かせて経済を成長させる、逆に物価が経済的に低下するデフレになると、正反対のスパイラルが働いて経済は縮小する(p75)デフレスパイラルにおいては、需要のみならず、設備。労働力といった供給能力(=国民経済の潜在的な成長力)も破壊される(p77)
・2022年2月以降のインフレの主たる原因がコストプッシュ・インフレであるとしたならば、金融の引き締め(利上げ)は、誤った政策と言わざるを得ない。インフレ自体は抑制できるかもしれないが、その結果として、パウエル自身も認めるように、家計や企業が犠牲になるからである(p90)主な原因は、パンデミックやウクライナ戦争によるエネルギーや食糧のサプライチェーンの寸断にある、このサプライチェーン問題を解決する上で、利上げは何の役にも立たない、それどころか景気後退、高失業率、発展途上国の債務問題の悪化などをもたらす(p93)
・日本は他の先進国に先んじて少子高齢化を経験し、労働力不足や社会保障費の増大に直面していた、それにも関わらず日本は、インフレに悩むのではなく、その逆にデフレあるいはディスインフレに苦しんでいた、なぜ生産年齢人口の減少という人口構成の変化にも関わらず、これまでの日本はインフレを経験しなかったのか、その答えを、グットハートらは「グローバリゼーション」に求めている、日本の企業は海外投資を進め、生産拠点を積極的に中国など新興国に移転することで、国内の人口減少にも関わらず、豊富で安価な労働力を享受していた(p107)
・政府がインフレ政策(完全雇用政策)を取るか、デフレ政策を取るかは、資本家階級と労働者階級のパワーバランスに影響を及ぼす決定だと言える(p121)
・19世紀後半になると、重化学工業や電気による「第二次産業革命」が進展して供給能力を飛躍的に向上させ、加えて、鉄道・蒸気船・電信などの発達と普及により、世界市場の統合が急速に進んだ。この時期は「第一次グローバリゼーション」と呼ばれている、これは海外からの安価な資源、製品あるいは労働力の流入を促進し、デフレ圧力を発生させた。これは、インフレ抑止にも貢献したものと考えられ、全体を通して見れば、概ねデフレ基調であった(p175)
・ユーロ加盟国は、予算年次ごとの財政赤字をGDP 3%以内に抑えるとともに、債務残高がGDP 60%を超えないことを求められていた、しかし2020年3月、コロナパンデミックを受けて、この適用を一時停止した、これは2023年には適用再開の予定であったが、ウクライナ戦争の勃発を受けて、2023年も運用停止となった(p185)
・大規模な積極財政による資源動員、産業政策による資源配分、資本規制、価格統制、まるで、戦時経済体制である。いずれもその体制において、典型的な制作手法に他ならない(p203)21世紀の日本経済のあるべき姿は、恒久戦時経済である(p204)