本書の中心となる考え方は、「セルフメディケーション」である。著者は、患者負担が年々増加する時代だからこそ、自分自身の健康は自分で守るという知識と実践が何より重要だと説いている。セルフメディケーションとは、自分自身の健康に責任を持ち、軽度の体調不良は自分で手当てするという考え方であり、これからの医療の基本となるべき姿勢であるとしている(P4)。
著者は、医療の本来の役割は救急医療や外科手術などの急性期医療にあり、生活習慣病をはじめとする慢性疾患については、医療に依存するのではなく、患者自身が生活を改善して向き合うべき領域であると述べている。医師は病気を治す人ではなく、病気の原因を患者と一緒に考え、改善方法を助言する存在であり、薬はあくまでも一時的かつ補助的な役割に過ぎないと考えている(P18、P27)。
その代表例として風邪を挙げている。風邪をひいた時は無理に栄養を取る必要はなく、水分を十分に補給しながら一日程度のプチ断食を行い、体を休めることが重要であるという。断食開始から約16時間でオートファジー機能が活性化し、細胞の修復が進むため、回復を助ける可能性があるとしている。また、風邪をひいた時には無理に活動せず、十分な睡眠と安静を保つことが最も重要であると述べている(P22)。
さらに著者は、風邪や感染症は偶然ウイルスに当たることが原因ではなく、免疫力が低下した時に体内でウイルスの増殖を許してしまうことが発症の本質であると説明する。そのため、病気になってから対処するのではなく、日頃から免疫力を維持する生活習慣を身につけることが最大の予防策になると強調している(P23)。
その具体策として最も重要視しているのが「歩くこと」と「太陽を浴びること」である。著者は、「歩きながら太陽に当たらない健康法は意味がない」とまで述べている。日光を浴びることでビタミンDが生成され、免疫機能の維持に役立つほか、紫外線にはウイルスを不活性化する作用もあるため、感染症予防にも有効であるとしている(P37)。
また、朝7時頃に太陽の光を浴びることで体内時計が整い、およそ15時間後には睡眠ホルモンであるメラトニンが自然に分泌される。その結果、夜10時頃には自然な眠気が訪れ、睡眠の質が向上するため、朝の散歩は健康維持だけでなく生活リズム全体を整える効果も期待できるとしている(P38)。
著者は健康管理において口腔ケアも重要視している。歯磨きとは歯を磨くことではなく、歯と歯茎の境目にある歯周ポケットの汚れを取り除くことであり、この部分を丁寧に清掃することが歯周病予防につながると説明している(P68)。
さらに、高齢期の健康維持には舌の筋力が重要であるとし、普段から舌を回す体操を行うことや、歌を歌うこと、特にカラオケは口や舌を積極的に使うため非常に良い運動になるとしている。歯の本数だけではなく、口全体の機能を維持することが健康寿命を延ばすために欠かせないと述べている(P79)。
食生活については、血糖値スパイクを防ぐことが生活習慣病予防の第一歩であるとする。白米や白パン、スイーツなど糖質の多い食品を控え、その代わりに食物繊維を多く含む野菜や海藻、タンパク質を豊富に含む豆腐や魚などを積極的に摂ることを勧めている(P91)。
また、リウマチに対しても薬だけに頼るのではなく、まず砂糖や炭水化物を減らし、断食時間を設けてオートファジー機能を活性化するなど、生活習慣を見直すことが改善への第一歩であるとしている(P98)。
認知症について著者は、薬だけに頼るのではなく、生活の中で脳へ新しい刺激を与えることが重要であると述べている。その中でも特に効果的なのが「小旅行」であり、「旅行療法」と呼べるほど大きな意味を持つとしている。温泉や観光地など非日常の場所へ出掛けることで自然に歩く機会が増え、美しい景色や家族との時間は、認知機能が低下しても「感情の記憶」として残り、生きる喜びや意欲につながると説明している(P107)。
便秘についても、薬を飲む前に生活習慣の改善を優先すべきであるという立場を示している。便秘の大きな原因は腸内フローラと自律神経の乱れにあり、まず腸内環境を整えることが重要である。そのため、ごぼう、ほうれん草、キャベツなど食物繊維の豊富な野菜、バナナ・りんご・キウイなどの果物、わかめ・昆布・ひじきなどの海藻類を積極的に摂ることを勧めている。また、ヨーグルト・納豆・味噌などの発酵食品によって善玉菌を増やし、主食を玄米へ変えることや十分な水分補給、朝食をきちんと食べることも腸内環境改善に有効であるとしている(P130)。
循環器疾患については、血圧だけではなく「脈拍数」に注目すべきであると説いている。人間の心臓は一日に約10万回拍動し、一生では約30億回拍動すると考えられている。脈拍が速いということは、それだけ心臓を早く使い続けることになり、身体への負担も増える。そのため、血圧だけを過度に気にするのではなく、安静時の脈拍数にも注意を払い、心臓へ負担をかけない生活を送ることが大切であるとしている(P177)。
肥満やコレステロールについても、著者は薬による数値改善より生活改善を重視する。「コレステロール値が高い」という結果は薬を飲むべきという意味ではなく、「まず体重を減らし生活を見直しなさい」という身体からのメッセージであると考えている(P182)。
一方で、がんについては他の生活習慣病とは異なる見方を示している。がん細胞は人間の糖質代謝機能を利用して増殖するため、糖質制限など生活改善が一定の意味を持つことは認めながらも、生活改善だけで予防・抑制・治癒できる病気ではないと述べている。生活習慣の改善は重要であるものの、がんについては医学的治療が必要となる場合も多く、他の疾患とは区別して考える必要があるとしている(P199)。
また本書では、1994年の「前橋レポート」が学童へのインフルエンザ集団予防接種政策の見直しに影響を与えたこと(P30)や、新型コロナワクチンに対する著者自身の見解(P33)などにも触れられている。これらは著者が医療制度や予防医療について問題提起を行う中で紹介されている内容であり、本書全体を通じて「自分自身で考え、自分の健康に責任を持つ」という姿勢を読者へ問いかけている。
本書全体を貫くメッセージは、「病気を治す主役は医師ではなく患者自身である」という一点に集約される。医師は原因を見つけ、改善方法を助言する存在であり、薬はあくまでも補助的手段である。健康を維持する基本は、日々の生活習慣を整えることにある。歩くこと、太陽の光を浴びること、十分な睡眠、適切な食事、口腔ケア、適度な運動、旅行などによる心身への刺激を継続することが、生活習慣病をはじめとする多くの病気の予防につながるというのが著者の基本思想である。
本書は、「病気になったら病院へ行く」という従来の発想ではなく、「病気になりにくい身体を日常生活の中で自分自身がつくる」というセルフメディケーションの考え方を、多くの具体例を通じて分かりやすく紹介した一冊である。読者一人ひとりが健康管理の主体となり、医療と上手に付き合いながら生活習慣を改善していくことの大切さを教えてくれる内容となっている。