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経済で読み解く世界史(新書)

経済で読み解く世界史(新書) 的照片

本書は、国家の興亡、宗教、戦争、技術革新などを、経済的な動機や仕組みから読み解く。著者が重視するのは、歴史を過去の知識として覚えるだけでなく、現代を考えるために使える理解へ変えることである。その第一歩として、歴史上の出来事を、生産、交易、通貨、財政などの経済現象として捉える思考習慣を提案している(p18)。
通貨の歴史からは、制度と人々の行動の関係が見える。古代ペルシアとインドでは金銀の交換比率が異なり、商人はその差を利用して利益を得た。その結果、銀はペルシアからインドへ、金は反対方向へ移動したと説明される。国家が交換比率を定めても、人々は有利な取引を求めて動く。金銀の比価は、貨幣の流通や国際的な資金移動を左右する重要な条件だった(p42)。
帝国の衰退も、支配を維持する費用から捉え直される。著者はローマ帝国について、寒冷化による穀物不足と物価上昇、ゲルマン人の侵入、防衛費の膨張が重なり、広大な領土の維持が困難になったと説明する。領土の大きさは富の源泉である一方、軍事や統治の負担にもなるのである(p61)。また、ヨーロッパの農業生産力が高まると、ビザンツ帝国の食料供給への依存が薄れ、地域の自立とゲルマン諸王国の形成が進んだという。食料を生産し、供給する力が政治秩序を支えるという視点である(p75)。
宗教上の規範にも、経済の変化が影響する。中世のカトリック教会は、時間を神の所有物と考え、時間によって利益を得る利子の徴収を禁じていた。しかし、商業都市が発展して貨幣経済が浸透すると、禁止規定は次第に実態と合わなくなったとされる(p83)。イスラム世界についても、著者は異教徒への課税と信仰の存続を結び付け、宗教的支配の中にある財政上の実利に注目している(p116)。
富の蓄積は成長を促すが、偏りすぎれば停滞の原因にもなる。著者は、支配層への富の集中が一定の範囲では投資を進める一方、格差が拡大しすぎると経済を弱めると論じる。富裕層は一般層より所得に対する消費の割合が低く、資本が過剰に蓄積されれば投資効率も下がるためである。富の総量だけでなく、その分配と使われ方が重要になる(p91)。
大航海時代は、新たな利益を求める商業資本の動きとして描かれる。著者は、地中海交易でベネチアに対抗していたジェノバの資本が、大西洋へ活路を求めたことに注目する(p124)。さらに、オランダやイギリスの東インド会社は、株式によって資金を集め、事業を拡大する仕組みを発展させた。株主は会社の所有者となり、利益に参加する。資金調達とリスク負担の仕組みが、遠隔地への事業展開を支えたのである(p140–141)。
産業革命の意義は、生産を支えるエネルギーの制約を変えた点にある。人類は石炭や石油など、地下に蓄積されたエネルギーを利用し、森林などの生物資源が再生する速度を超えて生産できるようになった(p171)。著者は経済成長の条件として、資本蓄積、技術革新、人口増大の三つを挙げ、産業革命期のイギリスと戦後日本の高度成長に共通性を見いだしている(p178)。
ただし、工業化しなかった社会を、単純に遅れていたと評価することはできない。中国では商品作物や穀物栽培の生産性と収益性が高く、農業経営を続けることに合理性があったと著者は説明する。工業化の必要性は、各地域の利益構造によって異なっていたのである(p222)。一方、植民地向けの軽工業で成功したイギリスやフランスは、そのモデルへの依存によって転換が遅れ、重工業を発展させたドイツの追い上げを受けたとされる。過去の成功が、新しい産業への移行を妨げる場合もある(p239)。
経済発展の背後にある暴力や収奪も、本書の重要な論点である。著者はイギリスの対外的な富の獲得を、私掠船、奴隷三角貿易、アヘン三角貿易という流れで捉える(p189)。奴隷貿易の衰退についても、人道的批判に加えて収益性の低下を重視している(p192)。また、ナチスの侵略については、軍備拡大で悪化した財政と、他国の資産を奪う必要性を関連付けて説明する。戦争の背景を理解するうえで、国家の資金繰りにも目を向けている(p265)。
近現代には、金本位制からの離脱によって通貨発行の裁量が広がり、経済政策の可能性と通貨への信用の重要性が増したとされる(p35)。著者は覇権国家の条件を、生産力、流通力、金融力の三つに整理する(p185)。その視点から、ドルの弱体化や決済手段の多極化が論じられても、ドル覇権は簡単には崩れないとの見方を示す(p296)。歴史を経済から読むとは、出来事の背後で、誰が利益を得て、何が支配を支え、どこに維持の限界が生じるのかを考えることなのである。

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