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金投資の陰謀論を超えて 透明な財布の時代 デジタル資産監視網と、金貨という最後の選択肢

金投資の陰謀論を超えて 透明な財布の時代 デジタル資産監視網と、金貨という最後の選択肢 的照片

本書のメモから浮かび上がるのは、資産のデジタル化が進む時代には、何を持つかに加えて、どこに、どのような仕組みで持つかを考える必要があるという問題意識である。行政や金融サービスの情報連携は利便性を高める一方、資産や取引が記録される範囲への関心も生む。著者は、制度の実態を確認しながら、現金や貴金属、とりわけ自分で保有できる金貨の意味を捉え直そうとしている。
従来の資産形成では、株式、債券、投資信託のどれを選ぶか、円とドルのどちらで持つかといった、商品の種類や通貨が主な検討対象だった。しかし、資産の「見える化」が進む時代には、それだけでは十分ではない。どの口座に置くか、どの制度を利用するか、どの仕組みの中で記録されるかまで含めて考える必要がある。オンラインで残高を確認できる資産と、そうした仕組みの外で保有する資産では、管理の便利さだけでなく、保有の性質そのものが異なるという視点である(p26)。
デジタル資産についても、一括りにせず、価値を支える仕組みを見分けることが大切になる。本書では、ビットコインは市場の需給で価格が動き、その価値を約束する発行体が存在しないと説明される。一方、ステーブルコインは、特定の通貨や資産に価値を結び付け、それに近い価格を保つよう設計されている。メモで紹介されるIMFの説明でも、安定のための仕組みや裏付け資産が特徴として挙げられている。名称や使い勝手だけでなく、何によって価値が支えられているかが重要なのである(p30)。
行政の情報連携には、必要な人へ支援を届けやすくするという役割もある。その例が給付付き税額控除である。本書では、一律の減税や現金給付は分かりやすい一方、負担の重い層へ重点的に支援するには限界があると説明される。税額控除だけでは税負担の少ない人に恩恵が届きにくく、現金給付だけでは継続性や就労との結び付きが弱くなりやすい。両者を組み合わせることで、働いても生活が苦しい人や、社会保険料、物価高の負担が大きい人を、きめ細かく支援できる可能性があるという(p39)。
情報をデータでつなぐ動きは、確定申告にも表れている。マイナポータル連携では、給与所得の源泉徴収票、医療費、ふるさと納税などのデータを取得し、申告書へ自動入力する仕組みが広がっていると紹介される。個人が書類を集めて入力する方法から、所得や控除に関する情報を連携させる方法へと移りつつある。こうした変化は手間を減らすと同時に、自分の情報がどのようにつながるのかを理解する必要性も高める(p40)。
ただし、情報連携が進むことを、国があらゆる資産を常時把握していることと同一視してはならない。本書で紹介されるデジタル庁の説明では、預貯金口座付番制度における金融機関へのマイナンバーの届出は任意であり、届出をきっかけに国や自治体へ残高が伝わるものではない。また、公金受取口座も給付を受け取るための登録であり、預貯金残高を常時把握する制度ではないとされる。制度の目的と実際の情報把握の範囲を分けて考える姿勢が、過度な不安を避ける土台になる(p44)。
そのうえで本書は、現金が持つ価値に目を向ける。日本銀行が挙げる特徴として、強制通用力、支払い完了性、匿名性が紹介され、IMFの報告書についても、プライバシー保護や停電、機器不良の影響を受けにくい点が取り上げられる。現金の良さは、使い慣れていることだけではない。取引の記録を残さずに済むという性質にも価値がある。決済の便利さとは別に、プライバシーや機器への依存という観点から、お金の持ち方を考え直している(p68)。
貴金属を選ぶ際には、金と銀の違いも重要になる。銀は貴金属であると同時に、工業用素材でもある。本書で示される二〇二五年の需要は、総計十一・三億オンスに対し、工業需要が六・五七億オンスで、過半を占める。背景にはAIインフラ、自動車、送配電網への投資などがあるという。産業に必要とされる一方、景気や産業サイクルの影響を受けやすく、金より価格変動が大きくなりやすいとも説明される。著者は、金を土台に銀を補完として持つのか、少額から銀で始めるのか、それぞれの性格を理解して選ぶことを重視している(p79)。
最後に紹介される地金型金貨の特徴は、投資対象でありながら、自分で保有している実感を得やすいことである。各国の造幣局などが投資目的で発行する法定通貨の貴金属コインで、価値は主に金の含有量を基準に判断される。収集向けのプルーフ貨や記念貨とは評価の軸が異なり、仕組みを理解しやすいとされる(p81)。本書は、資産の価格だけでなく、記録のされ方、制度との関係、手元で持つ意味まで視野を広げ、自分に合う保有方法を考えるよう促している。